トップメッセージ

「マーケットアウト」への転換を軸に、
覚悟を持って既存の延長線上から脱却し、
真の構造改革を推進していきます。
私が研究開発畑の出身者として初めて社長に就任してから1年が経過し、2年度目に入りました。研究開発から事業化・製造に至る一連の流れを現場で経験し、さらに経営企画での経験を通じて、事業を俯瞰しながら忖度なく向き合えることは、私自身の強みであると考えています。この1年間、研究開発の進め方や顧客との関係性を従来の形から変えるべく、自ら現場に関与しながら改革を進めてきたことに一定の手応えを感じています。
一方で、オランダのMXDA製造子会社におけるプラント建設中止等に伴う多額の減損損失を計上した結果、2025年度は13年ぶりの純損失となりました。この結果を経営トップとして重く受け止め、投資規律の強化やガバナンス体制の見直しを進めるとともに、客観的データに基づく経営判断の仕組みづくりを急いでいます。
当社が真に変わるためには、既存事業の延長線上で改善を積み重ねるだけでは十分ではありません。市場や技術の変化が非連続に進む中、従来の成長モデルは容易に追随される可能性があります。特に中国やインドの競合企業は、研究開発や生産能力の拡大を想定以上のスピードで進めており、当社が同じ土俵に立ち続ければ、いずれ追いつかれ、追い越されるという強い危機感を持っています。だからこそ、ありたい姿からバックキャストし、社会にどのような価値を提供したいのかを起点に、必要な事業や技術を全社視点で見直す、真の構造改革を進めていかなければなりません。
その鍵となるのが、「マーケットアウト」への転換です。顧客の明確な要求に製品を合わせる「マーケットイン」では、競合が集中しやすく、価格競争に陥りがちです。一方で、顧客自身もまだ具体化できていない課題を先取りし、化学の視点で言語化しながら、顧客とともに市場そのものを創り出す「マーケットアウト」では、当社に適した市場を新たに形成・構築することができます。光学材料や電子材料事業では、顧客の設計プロセスにまで踏み込んだ開発が成果を上げています。社員一人ひとりが顧客のもとへ足を運び、フライングスタートで顧客の課題を捉える企業文化を根付かせるため、私自身も研究開発部門や事業部との対話を密に重ねています。また、研究員が顧客と向き合う時間を生み出すため、AIや統計解析等のDX・RXを活用し、実験の自動化・自律化も進めています。
事業ポートフォリオについては、「ICT・モビリティ」「医・食」「エネルギー・気候変動」の3つの軸で、短期・中期・長期の時間軸を意識しながら改革を進めます。「ICT・モビリティ」領域は引き続き収益の柱であり、BT材料や光学樹脂ポリマーなど、次世代・次々世代のターゲット材料を着実に市場へつなげていきます。「医・食」は、人口動態に連動した安定的な需要拡大が見込まれる社会的意義の大きい分野であり、投資や外部連携を通じて新たな成長軸に育てます。「エネルギー・気候変動」分野では、地熱発電や、CO₂・廃棄物等からメタノールを介してエネルギーや素材を生み出す環境循環型プラットフォームCarbopath™などを通じて、長期的な社会基盤の構築に貢献していきます。
技術への強いこだわりは、創立以来の当社の強みです。ただし、特色ある技術や製品であっても、それが顧客課題の解決や社会貢献につながる差別化技術であるかを見極める必要があります。事業や製品の正解は社内ではなく、顧客のもとにあります。今後は2021年度以降進めてきた「ROIC経営」を更に進化させ、全事業・全機能のデータを統合した「データドリブン経営」の推進によって、事業の継続・撤退をより客観的かつ迅速に判断できる体制などを整えていきます。既存の延長線上にとどまるのではなく、覚悟を持って全社を巻き込んだ構造改革を断行し、短期で稼ぐ力の追求と、長期で社会を支える取り組みを両立させることで、持続的な成長を実現していきます。
株主・投資家の皆様には、当社の改革への真摯な取り組みにご理解を賜り、引き続きご支援をお願い申し上げます。
2026年8月
代表取締役社長
伊佐早 禎則