財務経理担当役員メッセージ

相反する命題の両立を可能とする、
最適な財務戦略や資本政策を追求していきます
事業規模拡大フェーズから、より“筋肉質”な事業構造への転換
コーポレート部門の役員として、私が日頃から気を付けているのは、経営におけるバランス感覚です。例えば「社会的価値と経済的価値」「短期視点と長期視点」「量と質」「成長投資と株主還元」といった一見相反する様々な命題があるわけですが、これらは必ずしも二項対立ではありません。両立は可能ですし、むしろ両立させないといけないのです。そのためには、自社の経営の「軸」が今どこにあるのかを客観的に把握し、もしそれが偏っている、ずれていると判断したら、バランスを修正することが重要だと考えています。
2025年4月から、財務経理担当役員としてIRを含めた財務戦略全般を統括することになりました。私の役割は、様々な経営課題に対し、客観的・俯瞰的な立場から両立やバランスを追求していくことであり、また資本市場からのご評価や自社の財務状況を踏まえ、経営の軸足に修正を促していくことです。
当社グループの直近4~5年は、“身体を大きくする”フェーズでした。つまり、積極的な成長投資を通じ、量(規模)の拡大を図ってきたわけです。
一方で、世界的な建設コスト高騰も相まって、設備投資額や減価償却費は増加傾向にあります。また事業ポートフォリオ改革に伴い、将来に向けた研究開発費も増えています。従って、各段階利益の一時的な低下はやむを得ません。
こうした状況下においても、中期経営計画「Grow UP 2026」で掲げた累進配当方針、ならびに総還元性向50%は堅持していく所存です。これは将来キャッシュ・フローの創出に対する、私たちの自信の表れであると捉えていただければ幸いです。
現中計も折り返し地点に差し掛かりました。いわば、規模の拡大局面から、“筋肉質”な事業構造へ転換していくフェーズに入ったと言えます。今後は実施してきた成長投資の成果を着実に刈り取っていくことが重要です。このような中、改めてグループ全体に対し、投資規律・財務規律の徹底を図ってまいります。
資本コストや株価を意識した経営の推進
事業PF強靭化に向けた取り組み
- ROIC・ROE向上策の推進
- ICT3事業を中心としたU&P事業への経営資源の重点配分
- 成長投資の刈り取り早期化
- 高シェアを活かした価格転嫁の徹底
- 重点管理事業の再構築の加速
- コスト削減の再徹底(重点管理事業に限定せず、グループを挙げ て検討)
- 研究開発型企業としての価値創造の加速
- 戦略研究領域(モビリティ、ICT、医・食)を中心に新規・次世代事 業の育成・事業化を加速
- 戦略的M&Aの積極化
資本コスト低減に向けた取り組み
- 財務レバレッジの活用
- 業績ボラティリティの低減(U&P事業への集中等)
- アセットライト化の推進
- サステナビリティ経営の推進
- 投資家・アナリストとの対話強化 など
積極的な株主還元に向けた取り組み(現中計期間中)
- 「総還元性向50%」を中期的な目安に
- 「累進配当方針」に沿った配当政策
- DOE 3.0%を目標値に など
財務規律は維持しつつ、負債の活用による成長投資を継続
2025年3月に、格付投資情報センター(R&I)より取得している長期格付がAからA+に引き上げられました。ICT3事業の伸長等により、事業分散の効いた強固な収益基盤・財務基盤が出来つつある。そうご評価頂けた結果だと捉えています。当面は成長投資を中心に一定の資金需要が見込まれますが、培ってきた財務健全性を活かし、今後は負債による資金調達をより積極的に行っていく所存です。一方、ROICやROEなどの資本効率・資産効率指標については、一層の改善を図らねばなりません。
当社では、財務の健全性を把握する指標(KPI)の一つとして、D/Eレシオを採用しています。現中計では上限(資本効率性)を0.55倍程度、下限(財務健全性)を0.30倍程度と定め、資本効率向上と財務健全性の両立を図る「バランスシート・コントロール」を掲げてきました。上述の通り、今後は財務レバレッジの活用を進めていきますが、同時にバランスシートの左側、すなわちアセットの質的向上やスリム化等も急務です。その方策として、政策保有株式の売却、非事業用資産の売却、在庫水準の適正化等も進めていきます。
また、株式市場との対話の強化や、いただいたご意見等のグループ内へのフィードバックも欠かせません。「株価やPBRは、投資家の皆様からの評価である」との認識のもと、企業価値の向上に一層注力してまいります。
最適資本構成に向けた財務レバレッジの活用
- ROIC経営強化に向け、D/Eレシオによりバランスシートをコントロール。資本効率性と財務健全性の両立を念頭に、現中期経営計画期間中は0.3~0.55程度の範囲を想定
- D/Eレシオの現状に鑑み、各種の投融資に対しては負債を積極的に活用
- 2024年度は150億円の自己株式の取得、及び取得株数(555万株)の消却を実施。結果、D/Eレシオは0.32に
- 引き続き、財務規律を維持しつつ、積極的な負債活用を継続
D/Eレシオの推移(倍)

政策保有株式の売却
- 2024年度には、5銘柄(うち2銘柄は全売却)、約50億円を売却
- 政策保有株式の縮減は進めるも、保有上場株式の時価上昇により連結純資産に占める割合は上昇
- 今後も保有目的及び意義を毎年取締役会で個別銘柄ごとに検証を進め、適正保有水準を超えていると判断した株式の売却を加速

過去7年度で25銘柄(うち17銘柄は全売却)、累計約240億円※1を売却
※1 実績ベース。保有株式数の一部売却、みなし保有の売却も含む
政積極的な株主還元の継続実施
- 現中期経営計画において、「累進配当方針の採用※2」「総還元性向の引き上げ※3」等、株主還元を強化
- DOE※4は3.0%を目標値に(現中期経営計画期間中)
- 2024年度は、年間配当金の増配(普通配当ベースで15円の増配)に加え、自己株式取得・消却を実施※
- 25年度の年間配当金は、100円を予想(普通配当ベースで5円の増配)

- ※2 中期経営計画3年間の期間を対象。原則、減配を実施せず、配当維持または増配を行う
- ※3 中期的な目安を40%から50%に引き上げ
- ※4 2024年度(実績)2.83%、2025年度(予想)2.90%
- ※5 年間配当金の増配:2024年度の年間配当は95円。(中間配当45円、期末配当50円) 自己株式取得(消却):約150億円、555万株の自己株式取得、及び今回取得した自己株式の全株式数の消却を実施
株主及び投資家の皆様には、今後ともご支援・ご理解を賜りますよう、お願い申し上げます。
2025年9月
取締役 専務執行役員
財務経理担当、CSR・IR担当、総務人事管掌、
内部統制リスク管理担当